IDEA BOOK(アイデアブック)とは|Interview with 塩見直紀

各市町村の地域資源を活かしながら、新しいアイデアを創出する『アイデアブック』。今回、発案者である塩見 直紀さん(福知山公立大学地域経営学部特任准教授、半農半X研究所代表、総務省地域力創造アドバイザー)をインタビューしました。アイデアブック(地域資源から新しいアイデアを生み出す問題集)のコンセプトや活用事例、生まれた経緯などについてご紹介します。

塩見 直紀(しおみ なおき)
半農半X研究所代表
福知山公立大学地域経営学部特任准教授
総務省地域力創造アドバイザー

 

1965年、京都府綾部市生まれ、同市在住。カタログ通販会社フェリシモに約10年に在籍。1999年、33歳を機に故郷の綾部へUターン。2000年、「半農半X研究所」を設立。21世紀の生き方、暮らし方として、「半農半X(エックス=天職)」コンセプトを20年前から提唱。著書に『半農半Xという生き方【決定版】』など。半農半X本は翻訳され、台湾、中国、韓国でも発売され、海外講演もおこなう。若い世代のX応援のために、コンセプトスクールや半農半Xデザインスクール、綾部ローカルビジネスデザイン研究所、スモールビジネス女性起業塾(京都府北部対象)などもおこなう。関連サイトに『AtoZ MAKERS』。

地域資源から、地域の未来を考える

ーーアイデアブックの特徴について教えてください。

アイデアブックとは、地域資源に関連する16項目の質問を掲載して、自由は発想で回答を導き出すための書き込み式ワークブックです。特産品や観光名所など、その地域が持つ独自のリソースをもとに、地域の魅力をさらに発信できるような、新しいアイデアの創出を目的としています。全国から地域経営学部で学ぶために、福知山公立大学に集ってくれた学生に故郷編をつくってもらうプロジェクトからスタートしています。

ーーこれまで、どのようなアイデアブックを制作してきましたか?

アイデアブックは「市町村編」と「テーマ編」の2つに分けられます。市町村編は『茨城県・桜川市編』や『兵庫県・香美町編』など。「天然記念物『桜川のサクラ』。美しい桜川市をもっとみんなに知らせるには?」といった、地域資源をもとにした質問が掲載されています。

また、テーマ編には、『未来の車編』や『コミュニティナース編』『北近畿アウトドア編』などがあります。「車が提供できる価値をどのように再定義する?」「『認知症になっても安心できる住みやすい地域』にするために、あなたが取り組めることは?」といった、各テーマに基づいた質問が集まっています。

共通しているのは、「How might we〜?(私たちはどうすれば〜をできるのか?)」という創造性を刺激する質問が集まっていること。過去ではなく、未来を考える。そんな意味合いも含めて、僕はアイデアブックのことを「未来の問題集」と呼んでいます。

ーーアイデアブックを作ることは、地域にとってどのような価値があると思いますか?

バラバラに散らばった地域資源や地域の抱える課題について、1冊の本に集約できます。地域の魅力を再発見できる機会になりますし、アイデアブックを囲んで意見を交わし合うこともできます。それに、本の形にするのがポイントで、喫茶店や図書館、各市町村の役場に置けば、いろんな人に手にとってもらいやすくなる。アイデアブック自体が、地域資源のひとつになると考えています。

ーーアイデアブックの作り手にとっては、どのようなメリットがあるのでしょうか?

ワクワクをセルフメイドできることです。地域資源を調査し、16項目の質問を考えて、文章や写真を編集してミニブックを作り、配布先や活用方法まで考える。自分で生み出すことの喜びと難しさを体験できます。アイデアブックは福知山公立大学の学生たちを中心に作ってもらっていますが、学生に伝えているのは「消費者で終わらず、創造者を目指してください」ということ。アイデアブックを通して、受け取るだけでなく、新しいものを生み出すことの大切さを感じてほしいと思っています。

アイデアブックを通して、故郷に光をあてる

ーーアイデアブックが始まった経緯を教えてください。

きっかけとなったのは、2016年に考案した『ローカルビジネスのつくり方問題集』。これは京都府綾部市の基本的な地域資源(グンゼ、合気道の発祥地、里山など)を18個紹介しながら、新しいアイデアを生むための書き込み式ワークブックを作りました。制作するなかで、これは全国の市町村にも応用できるし、◯◯商店街編、限界集落編といったご当地版や、台湾訪問をきっかけに現地の地域版も作れると確信しました。

その後、福知山公立大学で開学してから制作したのが、アイデアブックの第1号『福知山編』です。6人の学生たちに地域資源をもとにした質問を考えてもらい、A5サイズの冊子を制作しました。「スイーツのまち、肉のまち、その次は何のまち?」「福知山には高校が6校ある。若い世代を活かして何かできないか?」など、おもしろい問いかけがたくさん。学生たちの発想に可能性を感じました。

現在の市町村編が始まったきっかけは、福知山公立大学での授業の感想シートを読んだこと。「地元のことをほとんど知らない」と回答した学生がとても多かったんです。このままでは、福知山市のことはもちろん、故郷のことも知らないで卒業してしまう。そこで、『先導的教育プログラム開発(※1)』の助成を受けて、制作を呼びかけたところ、10人の学生たちと、それぞれの故郷をテーマにしたアイデアブックを制作してくれました。その後も制作数が増えていき、現在では40市町以上のアイデアブックが生まれています(2019年12月現在)。

ーー実際、どのような場所で活用されていますか?

例えば、『茨城県・桜川市編』は、当時1年生の学生が作ってくれました。市長に直接会ってアイデアブックを手渡したり、市職員の研修に使ってもらったり。さらに、地元のJC(青年会議所)と繋がったのをきっかけに、ワークショップも行いました。若手のJCの方の中には、茨城県全ての市町村編を作ったらいいのではという夢も生まれたそうです。僕のなかで日本のすべての市町村編を作るイメージはありましたが、まさかJCと繋がれるとは想定していなかったので驚きました。

アイデアブックは冊子を作るだけでなく、学生がそのあとの活かし方も考えます。印刷する部数は基本的に10冊まで。誰に渡すのか、どこに置くのかは作り手次第です。使いどころを間違えると、せっかく作ったのに反応や効果が薄くなってしまうこともあります。作ることから、活かすことまで体験できる。それが、アイデアブックの醍醐味のひとつだと考えています。

人の数だけ、アイデアブックの形がある

ーー過去に制作されたアイデアブックが集まる、このWebサイトをどのように活用してもらいたいですか?

このアイデアブックは学生だけのものではありません。いろんなテーマのアイデアブックに刺激を受けて、ご自身のなかで創造力を膨らませていただきたいですね。日本全国にある約1,700市町村全てのアイデアブックを作るのが夢ですし、高校編、企業編、海外編など輪が広がったらと考えています。アイデアブックのフォーマットを公開するので、是非、ご自身でも作っていただきたいですね。

ーー最後に、アイデアブックに抱く未来の展望を教えてください。

アイデアブックを通して、いろんな「よい質問」を残していくこと、それらに答える(応える)人たちが増えることが大切だと考えています。最近、「正解のコモディティ化」という言葉を知り、衝撃を受けました。地域活性を考えたとき、同じような商品開発やイベント開催など、全国似たアイデアがいっぱいが増えています。

もちろん、過去の事例から学ぶ姿勢も大切です。でも、今後はそれらを超えるアイデアが求められます。一人ひとりが「How might we?」の問いかけを持ち、創造性を膨らませることが重要です。アイデアブックは、そのための道標になるでしょう。質問項目も、回答の内容も、人の数だけ形がある。可能性に満ち溢れていると思います。

アイデアブックは未完成です。工夫を施せる余白がたくさんあります。個性や創造性をどのように発揮するかは作り手次第。いろんなアイデアブックが生まれることを楽しみにしています。

取材日/2019年12月19日
福知山公立大学まちかどキャンパス「吹風舎」にて
取材・撮影・執筆/山本 英貴

※1
先導的教育プログラム開発助成事業とは?
福知山公立大学が育成する人物像「地域に根ざし、世界を視野に活躍するグローカリスト」の育成のため、新しい教育の創造のためのプログラム開発を支援する事業。アイデアブック(地域資源から新しいアイデアを生み出す問題集)事業は2017~2019年採択された。